大学の教員像に、新たな役割が加わっています。それは、経験や勘に頼るだけでなく「データで教育の質を客観的に証明する」役割です。関西大学が募集を開始した教学IR(インスティテューショナル・リサーチ)担当の専任教員は、その象徴的な事例です。少子化で生き残りをかける大学現場で今、なぜデータ分析のスキルが必要とされているのか。一般の会社員や事務職にも無関係ではない、職能の変化と生存戦略を解説します。
大学教授といえば、教壇に立って自らの知見を学生に授ける姿を思い浮かべるのが一般的でしょう。しかし今、日本の大学運営の裏側で、その役割を拡張するような変化が起きています。関西大学が現在募集している専任教員の公募には、教育推進部にて内部質保証や教学IR推進を担当するという、データ分析を主軸とした専門的な役割が記されています。
教学IRとは、学生の学習成果や授業の有効性をデータとして収集・分析し、大学経営や教育改善に役立てる活動のことです。これまで「教え方」や「教育の質」は教授個人の裁量や主観に委ねられる部分が多かったのですが、少子化が進むなかで大学が生き残るためには、客観的なエビデンスに基づいた教育の質保証が不可欠になっています。つまり、教育現場においても、データに基づいて自分の仕事の価値を証明する専門職のニーズが高まっているのです。
この変化は大学教員という限られた職種だけの話ではありません。企業の教育研修担当や人事、あるいは顧客対応の質を管理する事務職にとっても、自分の仕事を「勘」ではなく「データ」で語る能力が求められる未来を予見しています。これまで定性的だとされていた「人の成長」や「満足度」を数値化し、改善につなげるスキルは、あらゆる業界で事務職から専門職へとステップアップするための共通言語になりつつあります。
AfterAI編集部としては、この動きを「ホワイトカラーのデータ・トランスレーター化」と捉えています。単にルーチンワークをしたり資料を作ったりするだけの仕事はAIに置き換わる可能性が高い一方で、現場の専門知識とデータを結びつけて意思決定を行う役割は、今後ますます需要が増えるでしょう。特定の大学教員がデータ分析の専門家として組織の中枢を担うようになる事実は、私たちが考えている以上に「AI時代の仕事」のハードルが、専門性とデータ活用能力の両立という形に変化していることを示唆しています。
よくある誤解として、教学IRやデータ分析の仕事は、数学に精通した一部の統計学者にしかできないと思われがちです。しかし、実際の現場で求められているのは複雑な数式を解く力だけではなく、現場の課題を数字という共通言語に翻訳し、組織にとって何がプラスになるかを判断する実務的な感覚です。人事・労務の分野でもAI関連の学習リソースが拡充されているように、今や分析ツールや知識は専門外の人にとっても手に届くところにあります。
今日からできることとして、まずは自分の仕事における「質の定義」を数字に置き換える練習をしてみましょう。例えば「顧客対応の質が良い」とは、返信までの時間なのか、解決率なのか、あるいはその後のリピート率なのか。曖昧な表現を数値化する癖をつけることが、データ活用への第一歩になります。
次に、自社や業界内でどのようなデータが収集されているのかを把握してください。大学が教学データを活用し始めているように、あなたの職場でもまだ活用されていないデータが眠っているはずです。そのデータの存在を知り、それが何に使えるかを想像するだけで、視座は管理職や専門職のそれへと近づきます。
最後に、AIやデータ分析の基礎知識を、専門外だと敬遠せずに少しずつ取り入れていきましょう。最新のHRテックやAI書籍のラインナップを眺めるだけでも、世の中がどの方向に向かっているかのヒントが得られます。大学教授の役割にデータサイエンスの要素が加わる時代において、学習を止めることはキャリアの停滞に直結します。