AI導入が必ずしもリストラに直結するわけではありません。最新の経済学研究(Aghion et al., 2022)では、自動化に積極的な企業は生産性を高めて市場シェアを奪う「ビジネス・スティーリング」により、結果的に雇用を増やす傾向があることが示されました。この記事では、自動化による成長の仕組みを紐解き、AIを「コスト削減」ではなく「拡大」のために使う企業を選ぶべき理由と、私たちが取り組むべきキャリア戦略を解説します。
AIを導入した企業では、むしろ雇用の数が増える可能性がある。そんな意外な事実が、最新の経済学的な調査によって改めて注目されています。自動化(ロボットやソフトウェアによる効率化)を積極的に進める企業は、その後の雇用を減少させるどころか、組織を拡大させることで結果的に多くの人を雇い入れる傾向があるというのです。
この現象の鍵を握っているのが、経済学で「ビジネス・スティーリング(Business Stealing)」と呼ばれる視点です。2022年に発表されたアギオン氏らの研究(フランスの製造業データに基づく調査)によると、自動化を導入した企業は、作業効率が劇的に上がることで、製品のコストを下げたり品質を向上させたりすることができます。その結果、競合他社から顧客を奪い、市場でのシェアを拡大させます。会社自体の規模が大きくなるため、自動化した業務そのものは減っても、それ以外の周辺業務や新しいサービスを維持するために、かえって多くの人手が必要になるという理屈です。
調査が示した重要な事実は、自動化による一部の仕事の消失よりも、市場シェアの拡大がもたらす仕事の創出の方が上回るケースが少なくないという点です。生産性の向上がもたらす利益がさらなる事業拡大の原動力となり、結果として組織全体のパイが広がる好循環が生まれています。これは、IT投資と適切な組織改革が高度なスキルを持つ労働者への需要を高めるという、1990年代から知られる知見(Bresnahan et al., 1999)を、現代の自動化技術がより強力に裏付けた形と言えます。
こうした変化は、これからの事務職やカスタマーサポートといった領域でも顕著に現れると予測されます。例えば、生成AIを導入して定型的な問い合わせ対応を自動化した企業が、そこで浮いたリソースをより付加価値の高い個別コンサルティングに回し、サービス品質を武器にさらに顧客を増やすといった形です。事務部門においても、単純なデータ入力をAIに任せることで、より戦略的な企画やプロジェクト管理を担う人員が必要とされるようになります。
私たちAfterAI編集部がこの事実から読み解くのは、これからのキャリア格差は「人間対AI」ではなく、「AIを使いこなして成長する企業」対「そうでない企業」の格差になるということです。自動化を単なる人件費削減の道具として使う企業は一時的に延命しても、いずれ競合にシェアを奪われます。一方で、自動化を武器に市場を攻める企業には新しい仕事が次々と生まれます。私たちは、自分の組織が「縮小のための効率化」を目指しているのか、それとも「拡大のための効率化」を目指しているのかを、冷静に見極める必要があります。
よくある誤解として、AI導入は常に労働者の敵であるという考えがありますが、現実はより複雑です。本当の脅威はAIそのものではなく、AIを導入せずに競争力を失い、市場シェアを奪われて衰退していく企業の「ゆでガエル」状態にあります。自動化による生産性向上を成長のチャンスと捉える企業こそが、長期的には最も安定した雇用の場を提供できるのです。
今日からできることの一つ目は、自社のAI導入の目的を改めて観察することです。経営層が、AIによって生まれた余力で新しい事業やサービスを増やそうとしているなら、その会社は今後も雇用を拡大する可能性が高いと言えます。現状維持やコストカットだけを口にしている場合は、注意が必要です。
二つ目は、AIが生成したアウトプットを「使いこなす側」のスキルを磨くことです。事務職であれば単なる入力作業ではなく、AIが出したデータを基に改善案を練るといった、AIの後工程を担えるようになれば、組織が拡大する過程で不可欠な存在になれます。
三つ目は、転職や就職の際に、デジタル化を武器に市場シェアを伸ばしている企業を優先的に選ぶことです。効率化によって余裕が生まれた会社は、さらなる成長のために必ず新しい才能を求めます。「守りの効率化」ではなく「攻めの自動化」を推進する企業をキャリアの選択肢に入れることが、AI時代の生存戦略となるでしょう。