AIや自動化が普及しても、マクロ経済の視点で見れば「仕事の総量」は減らないことが最新の研究で示されました。自動化による特定業界での労働の置き換えを、他産業への波及効果や社会全体の需要拡大など「4つの反動」が打ち消すからです。事務職や顧客対応などの職種においても、タスクの内容は変化するものの、経済全体のダイナミズムが新たな付加価値業務を生み出していく実態が見えてきました。
AIや自動化技術が進化するたびに、私たちの仕事が機械に奪われるという不安が世の中を覆います。しかし、過去40年間にわたる各国の産業データを詳細に分析した結果、自動化が必ずしも社会全体の雇用を減らすわけではないという事実が明らかになりました。実際には、テクノロジーが特定の労働を置き換える力よりも、経済の仕組みが生み出す「反動」の力が、雇用を維持する方向に強く働いているのです。
この調査(Autor & Salomons, 2018)では、自動化によるマイナスを打ち消す4つの大きなルートが示されています。まず、自動化で製品が安くなれば、消費者の余ったお金が他へ回り、社会全体の需要が増えます(最終需要効果)。また、ある業界が自動化されると、その周辺のサプライチェーンで新たな部品やサービスが必要になります(投入産出効果)。さらに、効率化によって社会全体の所得が増え、新たな消費が生まれることで、結果として経済の至る所で新しい仕事が創出されるのです。
ここで注意が必要なのは、自動化が進んだ「その業界」の中だけを見ると、仕事は減る傾向にあるという点です。例えば、一般事務職やカスタマーサポートの現場では、定型的なデータ入力や問い合わせ対応がAIに置き換わり、そのタスクに従事する人数は減るかもしれません。しかし、企業が効率化によって成長すれば、より複雑な顧客対応や戦略的な事務管理といった、これまで手が回らなかった「人間だからこそできる業務」へのニーズが高まります。つまり、特定の作業は減っても、労働力はより付加価値の高いタスクへと再配置されていくのです。
AfterAI編集部としては、この結果を単なる楽観論として捉えるべきではないと考えています。マクロ経済で仕事の総数が維持されるとしても、個人レベルでは「今のままのスキル」でいられるわけではありません。仕事そのものがなくなるのではなく、仕事の内容、つまりタスクの構成が劇的に変わるのです。煽り立てるような失業不安に惑わされる必要はありませんが、自分の職種の中でどのタスクが残り、どのタスクが新たに生まれるのかを冷静に見極める誠実さが、今もっとも求められています。
ここで一つの大きな誤解を解いておく必要があります。それは、世の中にある仕事の総量はあらかじめ決まっており、機械がそれを取れば人間の分がなくなるという考え方です。これは経済学で「労働量固定の誤謬」と呼ばれますが、現実の経済は動的です。自動化によって生産性が向上すれば、人々はより安く、より良いサービスを求めるようになり、その過程で以前は存在しなかった新しい職業やサービスが次々と誕生していくのが歴史の常です。
今日から私たちができる一つ目の行動は、自分の仕事が「誰の、どのような価値につながっているか」を再定義することです。単なる作業手順ではなく、自分の業務が提供している最終的な価値を理解していれば、手法がAIに置き換わっても、その価値を届ける別の方法で活躍し続けることができます。
二つ目の行動は、自分の職種だけに閉じこもらず、隣接する業界やサプライチェーンの動きに目を向けることです。自動化によって他業界でどのような需要が生まれているかを知ることで、自分の経験が活かせる新しいポジションを見つけやすくなります。一つの専門性に固執せず、変化に合わせてスキルを横展開する意識が、これからのキャリアの盾となります。
三つ目の行動は、AIを「競合」ではなく、自分の生産性を高めて「反動」を起こすためのツールとして使いこなすことです。ツールに振り回されるのではなく、自らが効率化の主体となることで、余った時間をより高度な判断や創造的な対話に充てられるようになります。テクノロジーを使いこなす側へとマインドセットを切り替えることが、もっとも確実な防衛策と言えるでしょう。